放射線の生物への影響はDNAを介するー2

  • 2011/10/07(金) 20:29:04

2.放射線のDNAに影響を及ぼすメカニズム
除染問題、福島県民健康調査などいろいろ書きたいことはあるが、DNAに及ぼす影響の連載を始めたのに回り道ばかりでは続きを期待しているヒトに申し訳ないので書くしだいです。

日本語で放射線の作用と言う時、電離作用という言葉も一緒に使うことはあまりないが、英語では必ずといっていいほど電離放射線(inonizing radiation)というので、その意味も合わせ、また放射線の生体への影響の根幹はDNAに対する作用なので基礎から説明します。あまり正確に覚えていただかなくてもイメージが残ってもらえればと思う。

はじめに学校で学んだ化学のおさらいをします。食塩は塩化ナトリウム(NaCl)といわれるようにナトリウムは電子を与えプラスイオン化し、塩素は電子を受け取りマイナスイオン化し、二つの原子は最外殻を回る電子の軌道を共有する分子となる。これが化学におけるイオン化した分子であり、電荷の総和はゼロであることから安定している。

一方、放射線による電子が細胞の中を通過する場合は、電子が走る道筋(トラックという)に沿って、周辺の分子との間に相互作用が働いてエネルギーがばらまかれる。ここで放出されたエネルギーはトラックの近傍にある原子や分子に吸収されて、その結果、励起(電子の軌道が高エネルギーレベルに上昇すること)や原子や分子からの電子放出が起こる。通常の化学反応と異なる点は、放射線によって原子がエネルギーを吸収した場合にはどんな電子(最も外側の軌道にあるもの以外の電子)でも放出される点である。そうした原子や分子は「ラジカル」と呼ばれ、電荷の総和はゼロでなく、極めて反応性が高く、不安定である。ラジカルの中には水溶液中でわずか100万分の1秒の寿命のものもある。

放射線の生体への障害作用は、この電離作用によって、細胞内のDNAを傷害することによって引き起こされる。傷害機序は、電離作用によってDNA鎖が直接的に傷害される場合と、電離作用によって生成されたラジカルなどによって間接的に傷害される場合の二種ある。

DNAは遺伝子の構成体であるため、DNA鎖の損傷は、遺伝情報が損傷したことを意味する。DNAは2重のポリ核酸の鎖からなっているが、その片方だけが書き換えられたのであれば、塩基の対の相手は決まっているので、酵素のはたらきにより、もう一方のタンパク質の鎖を雛型として数時間のうちに修復される。

しかし、2本の鎖の同じ箇所が書き換えられた場合に修復はきわめて難しくなる。修復が不可能な場合は、アポトーシスが働き(プログラムによる)細胞死が起こる。DNA鎖の損傷がごく軽度のため正常と誤認識するか、修復の誤りを正しいと誤認識(この確率は1億〜100億分の1)すれば細胞は生き残る。
DNA鎖が損傷したまま細胞が生き残り、損傷が固定化された場合、細胞の活動が異常化し、癌や白血病を引き起こす場合がある。この場合には確率的影響というが、自然に浴びる放射線で起こる場合との識別ができない。

放射線に被曝した場合、特定の器官において多数の細胞がプログラム細胞死を引き起こし、急性の身体障害を引き起こす。この場合確定的影響という。この作用は細胞分裂の回数の多い細胞(骨髄にある造血細胞や皮膚の上皮細胞など)ほど、放射線の影響を受けやすい。逆に細胞分裂が起こりにくい骨、筋肉、神経細胞は放射線の影響を受けにくい(ベルゴニー・トリボンドーの法則)。

確定的影響は直接被ばくの場合、かなり大量でなければ影響は認められないが,内部被ばくの場合には至近距離に放射性物質があることから、たとえばストロンチウム90の場合、ECCRの議長であるChris Busby博士(参考資料1)によれば外部被ばく1mSvは内部被ばく300mSvに相当する。従って、ストロンチウム90を1mSv内部被ばくしたとICRP計算で算出された場合には、実際の影響は300倍も大きいと看做す必要がある。ICRPの計算では粒子が具体的にどこに入ったかは関係なく、あくまで均一なモデルから計算により求められるのに対し、ECRRは疫学的事実にもとずいてICRP数値に対応させたことから、大きな違いが生じた。

参考資料1. http://www.globe-walkers.com/ohno/interview/busby.html

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