東日本大震災後の循環器病死者3倍増の原因は低線量被ばく説が有力

  • 2012/08/02(木) 07:56:32

本年3月の日本循環器学会総会で東日本大震災以降、心不全をはじめ、ACS (Acute coronary syndromeの略で急性冠症候群のこと) および脳卒中などの循環器疾患が3倍も増加したことを東北大学循環器内科の下川宏明氏は報告した。特に心不全の増加は、過去の大震災疫学調査では報告例がなく、東日本大震災の特徴の1つであることを述べた。<病人数など詳細については本年3月23日の私のブログに書きましたので省きます。>

その時、コメンテーターとして登壇した伊藤宏内科医は、「東日本大震災では地震に加え、津波の被害が甚大であったことから、被災者のストレスは多大であったと推定される」と指摘。下川氏ら自身による検討も加えられることによって、「こうしたストレスは心不全の要因および増悪因子となりえることを述べられた。

私はその学会に参加してなかったので、その時の他の参加者からの質疑はわからないが、次のことを考えた。
コメンテーターの発言については、今回起きた循環器疾患による死因増加の助長因子の一つであろうが、3倍にまで顕著に増加した主因とするにはもう少し様々な因子の解析が必要であろうと考えた。 何故なら阪神淡路大震災では関西とはいえ厳寒期の1月に起きたこと、寒冷地の厳寒期における災害は世界中の人類が過去に何度も経験していること。今回、暦の上では早春に起きたことと、今回の震災において、過去一度も人類が経験しなかったことを経験したのは原発事故による放射性微粒子の拡散であったのでその面からの考察も必要かと思った。

しかし、その当時私が把握していた唯一のエビデンスは久留米大学生理学教室でかなり前に実験された細胞膜に存在するカリウムチャンネルの通過がセシウムイオンではカリウムイオンの15%しかないということだけであったので、そのことについてのみブログに書いた。

最近は蛋白質の分子構造が三次元映像でも表示できるようになり、またゲノム科学の急速な進歩に伴って、低線量被ばく(年間100mSv以下の被ばく)によるメカニズムに関する数多くの医学的な影響に関する報告が世界各地から発表されるようになった。

今回、そういった研究分野の研究者から教えていただいた論文の中にイギリスのMark P. Littleらによる文献(全著者名、タイトル雑誌名、URLも最下段に表記)が、本年循環器学会での報告の考察における有力説と思えたので紹介する次第です。
なお、本研究の対象疾患はアテローム性動脈硬化症による心疾患および脳卒中ですので厳密に論じるには下川先生による疾患の再分類が必要でしょうが、略同等とみなしてそんなに差が出ないかと想像しています。

日常的に少量の被ばくを浴びる様々な職業があるが、そういった人々におこる心疾患の過剰リスクに対する新しい証拠が次々に浮上してきている。しかし、そのメカニズムははっきりしなかったので著者らはヒトの入手可能なすべてのデータを、空間反応―拡散モデル(spatial reaction-diffusion model)にかけ解析した。

その結果、血栓形成に関わる因子MCP-1<註:本論文では MCP-1はmean chemo-attractantと記されているが、別名MCAF(monocyte chemotactic and activating factor)とも書かれ、白血球の一種である単球に対する走化性の亢進だけでなく、ライソゾーム酵素や活性酸素の放出亢進、抗腫瘍活性の増強、インターロキン(IL-1)およびIL-6の産生誘導 など多様な作用を有する。
このものはもう少し広い範囲を広げて見ればケモカイン(chemokine)の一種ともいえる>
の濃度が低線量被曝による累積量と直線関係で増加することをモデル解析により見つけた。

本因子が増えることは心臓および脳での血栓症を起こし易くなることである。
このことから低線量被ばくと心臓疾患および脳疾患患者の増加の関連性が明らかにされたいえる。

参考文献1.Mark P. Little*, Anna Gola, Ioanna Tzoulaki:A Model of Cardiovascular Disease Giving a Plausible Mechanism for the Effect of Fractionated Low-Dose Ionizing Radiation Exposure: PLoS Comput Biol 5(10): e1000539. doi:10.1371/journal.pcbi.1000539
http://www.ploscompbiol.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pcbi.1000539

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