放射性セシウムによる心筋梗塞のメカニズム考察

  • 2013/01/03(木) 22:23:56

放射性セシウムの心臓に及ぼす作用は心臓のポンプ機能の障害だけでなく、心臓に栄養などを供給する冠状血管の閉塞から心筋組織の壊死をもたらすところの心筋梗塞も想定されるので考察する。

この考えをサポートするエビデンスが二つあるので説明する。
一つは、2012年3月の日本循環器学会総会で東北大学循環器内科の下川先生から発表された下記発表であり、概要は{ }内へ記した。

{「2008年から2011年6月30日まで宮城県の救急車で搬送されたすべて(約12万件)の患者記録を調査し、この全例を対象に、心不全、ACS(急性心筋梗塞と狭心症も含む)、脳卒中(脳出血、脳梗塞)、心肺停止、肺炎の症例を調べた上で、震災前後および同時期の過去3年間について、各疾患の発生件数を比較検討した結果:過去3年間の週間平均発生数と比較すると、2011年3月11日〜4月7日の発生数は、調査した疾患すべてにおいて有意に多くなっていた。
更に東北大学循環器内科におけるデバイス植え込み患者および冠攣縮性狭心症患者も対象に、震災の影響を検討した結果:不整脈(特に心室性)の増加が見られ、心臓再同期療法(CRT)治療の効果の減弱や冠攣縮の増悪の可能性なども明らかになった。                           しかし、学会の席でのコメンテーターも加えた予稿集での考察は「東日本大震災では地震に加え、津波の被害が甚大であったことから、被災者のストレスは多大であったと推定され、こうしたストレスは心不全の要因および増悪因子となりえることと、寒冷との関連性も考察された」となった。}

なお、出席者から放射線の影響に関する質疑があったかはわかりませんが、寒さや津波のストレスは世界中の人類が過去に何度も経験している。今回の震災特徴は有史以来初めてとなる原発事故による被ばくの影響を受けていた。従って、この解析がなかったとすれば残念に思う。勿論、寒さや津波のストレスの関与を否定するわけではないので、ウエートずけの問題になるが。

今回の報告においても心不全や心室性不整脈の誘発が報告されたことは前編の考察のエビデンス面での裏付けになろう。

もうひとつのエビデンスは2011年度の福島県の疾患別死因数の情報がある県からもれてきたことで{ }内に記した。

{2010年度の福島県の心疾患死亡率は全国8位の197.6人/10万人であったが、2011年度になると全国一位の226.0人となった。放射性セシウムの体内濃度は毎日一定量を摂取した場合に平衡に達するのに約1年半かかる。従って、心疾患死亡率が数字で示されるのは、早くても2年目以降と想定していた。こんなに速く数字で表れることは想定外であった。
しかし、年齢別の心疾患死亡率が不明なので細かな解析ができなかった。例えば子供なら、10万人あたり30人増えたら30倍の増加であるのに、高齢者で起こるなら15%の増加にしかならない。
ここでは特定の年代層に偏ったものでなく平均的な割合で増えたと仮定した。

以上の二つのエビデンスから、福島原発後心筋梗塞の増加が考えられるが、更に今後も被ばく地域で心筋梗塞の増加が続けば関連性がより強まると考えられる。
           
血管が閉塞する場合には血栓因子の関与が考えられるが、放射線との関連性が明確でなかった。イギリスのMark P. Littleら(参考資料1)はヒトの被ばくと血栓症に関する入手可能なすべてのデータを、空間反応―拡散モデル(spatial reaction-diffusion model)にかけ解析した結果:血栓形成に関わる因子MCP-1<註:本論文では MCP-1はmean chemo-attractantと記されているが、別名MCAF(monocyte chemotactic and activating factor)とも書かれ、白血球の一種である単球に対する走化性の亢進だけでなく、ライソゾーム酵素や活性酸素の放出亢進、抗腫瘍活性の増強、インターロキン(IL-1)およびIL-6の産生誘導 など多様な作用を有する。このものはもう少し広い範囲を広げて見ればケモカイン(chemokine)の一種ともいえる>の濃度が低線量被曝による累積量と直線関係で増加することをモデル解析により見つけた。

従って、本因子が増えることは心臓および脳での血栓症を起こし易くなることである。
これらのことから低線量被ばくと心筋梗塞症の関連性が明らかにされたといえる。

参考資料
1.Mark P. Little*, Anna Gola, Ioanna Tzoulaki:A Model of Cardiovascular Disease Giving a Plausible Mechanism for the Effect of Fractionated Low-Dose Ionizing Radiation Exposure: PLoS Comput Biol 5(10): e1000539. doi:10.1371/journal.pcbi.1000539


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