NHK放射性ヨウ素番組(昨年4月、今月)についての感想

  • 2013/01/16(水) 22:19:00

先日書いたブログは記憶薄れによる数字の若干の間違いや、歯切れの悪い文章であったために誤解をあたえた箇所もあったようです。それで、2012年4月1日、NHKETV、「ネットワークで作る放射線地図」と1月12日のNHKスペシヤル、「空白の初期被ばく」の両方のビデオを観てブログを書き改めました。

前回のETV特集の後のNHKということで連続性を期待したが、前回の分と今回の分が合体し、総集編のような形になっていた。NHKでも外局で作られたETVと違って、個別の具体的な言及を避けなければならない制約がかかっていたと思う。そこを、鎌田キャスターが誰も文句をつけることのできない一般論でうまく展開されたと思う。

前回のセシウムの分布とヨウ素では分布が異なることが報道されたが、その理由について気化温度の違いの時、抽象的な説明だったので、ヨウ素の沸点は水より高い184℃(113℃は融点)に対し、セシウムは671℃と具体的に言えばよりわかり易いと思った。

前回は二次元画像だったが放射性ヨウ素の分布の動きは良くわかった。今回は一部、三次元映像が出て、この時は放射性ヨウ素が地面を這うように分布していく様子がはっきりと映し出され、これが今回のハイライトと思った。このような素晴らしい映像が完成したのも、手弁当でご尽力された次の先生方(岡野、鶴田、滝川、田辺、佐藤)によるものと感謝します。
この図から放射性物質は風向きや風の幅によってあらゆる方向へ向かい、ある場合には細い線のようにどこまでもあまり希釈せず200-300kmも飛んで行くケースも起こりえることが理解できました。このことは原発事故時の気象条件により、広大な地域が影響を受けるので、避難区域の見直しが必要なこと示唆している。

前回の番組と今回の番組を聞いて整合性がないというか二つを結びつけようとすると理解できなかったのは甲状腺等価線量の話であった。前回は測定日が4月11日だったので、3月12日被ばくしたと見なして換算したこと。大人の経口93mSv吸入被ばく87mSvは一歳児ではそれぞれ811mSvと753mSv、四歳児では434mSvと402mSvに相当すると具体的に話した。今回は40代男性で甲状腺等価線量33mSvが乳幼児が63mSvとのことだった。4月11日の実測値を何日までバックしたのか、乳幼児の具体的な想定年齢は何歳などの話がなかった。多くの国民は9ケ月前にみていたわけなので消化不良のヒトも多かったような気がする。WBCによる放射性セシウム濃度からの推定については次に述べる理由で何も頭に入れる必要はないであろう。

放射性ヨウ素の測定については誤解を与えないよう詳細に書きます。3月24日から30日にいわき市、川俣町、飯舘村の子供約1000人余りで甲状腺部位にNaIシンチレーションサーベイメータをあて、そこから出るγ線量を測定した。このタイプの線量計は核種を識別できないので、甲状腺から出るγ線だけでなくバックグランドも全て拾ってしまうものであった。<当然バックグランド値を引き算したわけだから、本来は子供を非汚染地域まで移動させ測定すべきだった。またデータの信頼を得るためには個々の実測値とバックグランド値も公表すべきだ。>

4月10日前後、弘前大学の床次教授のチームは浪江町津島地区にてヨウ素131のγ線を特定して測定できるγ線スペクトロサーベイメータを用いて大人の甲状腺から出る線量を測定していた。ところが60名くらい測定したところで福島県からの電話による中止要請を受け中断した。
このようなわけで、福島の子供のヨウ素131被ばくに関するデータが存在しないことが明らかになった。そこで浪江町は床次教授にヨウ素131の被ばく量を何とか推定する方法はないか依頼した。

同教授は同一人における放射性セシウムとヨウ素131の計測(2011年4月10日前後か)を行っていたので、町から与えられた町民の被ばくデータ(原発事故から1年後のWBCによるセシウム134の測定結果)からヨウ素131の被ばく量を推定被ばくデータであった。
このWBCによるセシウム134の値から3月中旬におけるヨウ素131の推計を試みたわけです。
私は同教授にできることはこれしかないから止むを得ず試みたと理解しました。

ところがテレビというものはすごい反響を呼ぶもので、次のような言葉「福島第一原発事故による甲状腺の内部ひばくを、セシウムによる内部被曝から推計する方法を、弘前大が考案した。甲状腺被曝を起こすヨウ素は半減期が短いため実測できた人はわずかしかないが、弘前大の手法を使えば、不明だった甲状腺被曝の実態解明につながる。」との期待があがった。

期待に水を差すことで申し訳ないのですが、被ばく時から数ヵ月後ならこの考えは通用できても、1年も経過したら使えなくなる。
何故なら、放射性物質を体内に取り込んで場合、物理学的半減期と生物学的半減期の二つの影響受けます。生物の受ける影響はこの合算されたものになります。
次のURLをクリックするとグラフが出てきます。
 http://www.nirs.go.jp/db/anzendb/RPD/JPDF/gy/jgyCs137WB.pdf
このグラフから半減期を読むと、成人では80日くらいですが、5歳児では20日しかありません。即ち、20日で半分、40日で1/4、60日で1/8、80日で1/16、100日で1/32、200日で約1/1000となります。400日経てば百万分の1になります。
1年後のWBCで計測された値は、放射性ヨウ素のプルームを浴びた時に一緒に浴びた放射性セシウムは何十万分の1に減弱しており、もし高い値になっていれば、その後食品や、呼吸時に吸い込んだ放射性セシウムであることを示しています。
今後測定するならば、事故から2年経過後になってしまうわけで、放射性セシウムを測定しても、そこから放射性ヨウ素を類推することは無理です。

ここから書くことはテレビ放映では全く触れてなかったですが放送すべきことだったと思います。
一方、放射性ヨウ素131の環境中に降下した濃度の推定は、ほとんど消失してしまった現在でもかなりの精度で可能です。
ヨウ素とセシウムでは放出する時間も違い、元素の違いによる分布状況の違いが生じますので、同じ元素がのぞましく、また原子炉からどちらも多量に放出されていることが望ましいわけです。

この条件を満たすものがヨウ素129でした。三宅らは(参考資料1)、原発事故後まもなく、まだ環境中にヨウ素131が存在している間に、半減期約1600万年もある超寿命のヨウ素129の測定を原発から4kmくらいの地点から同心円上に福島市まで広範囲に広げ、組織的で綿密に実施しています。原子炉内にあったヨウ素129の量(原子数)はヨウ素131より約30倍も多かったと思われる結果が得られました。しかし、多量存在したにもかかわらずあまりにも長い半減期の関係でベクレル数はヨウ素131が1ベクレルなら、129は30X8(8/16000000X365)=0.000000041ベクレルしかありません。
当然、放射活性からは測定できないので、加速器質量分析計AMS(accelator mass spectrometry)により超微量分析を行いました。
なお、ヨウ素129についてはブログに別途書きます。

低線量被ばくの場合には個人差が非常に大きいので、被ばくの可能性のある子供についての甲状腺検査を定期的にしっかり行うことが重要だと思います。

参考資料
三宅らによる海外雑誌投稿文(ヨウ素129からヨウ素131の量を推定する方法)は次のURLで読めます。
http://www.terrapub.co.jp/journals/GJ/pdf/4604/46040327.pdf

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