放射線のラット遺伝子に及ぼす影響は後世代へ増幅される

  • 2012/07/11(水) 20:46:29

丁度一年前、Eisbergの日記で<当ブログのリンク7番目に掲載> 「チェルノブイリは遺伝子の中で荒れ狂う」を読んだことを思い出した。チェルノブイリ原発事故後、継続的に診療活動をしてきたSiedendorf女医が語った言葉だった。昨年は事故から25年が経過し、環境中の放射線量が徐々に低下してきていたにも拘わらず、子供の健康状況は年々悪化の一途をたどってきているという報告だった。このことから、遺伝子を介して発現していると解釈できた。しかし、この影響は何世代まで続くのだろうか?もし、臨床症状だけでなく基礎医学面からの裏付けもあればという思いもあった。
ところが、既にサポートする論文があったので紹介する。

ベラルーシのRose Concharova らは「放射能汚染地域で長期間被曝した野生ネズミの遺伝子を長期間モニターリングした結果」遺伝子突然変異の倍数対細胞の頻度が年を経るに従い増加することを観察した。
本報告は京都大学原子炉実験所 今中哲二(編)『チェルノブイリ原子力発電所の放射線影響についての研究活動と、事故の被害者援助の社会的活動』所収
されていますので詳しくはそちらでお読み(参考文献1)ください。なお、ニューヨーク科学アカデミー刊『チェルノブイリ:大惨事の人々と環境への影響』でも引用されているそうです(p.265)。

私が感じたエッセンスと感想を以下書きます。
●汚染地域について日本での該当地域は私の記憶から勝手に書き込みました。
チェルノブイリ原発事故後の1986年から1991年にかけて汚染度に応じて4地域を選び(4か所の放射線量はサイト1<ミンスク地方:日本では関東の低い地域に該当>がセシウム137の8千Bq/屐▲汽ぅ硲押礇船Д襯離屮ぅ蠍業から北北西400km:千葉・埼玉で線量高い地域が該当>が1.8万Bq/屐▲汽ぅ硲魁礇乾瓮衙60km:福島県内の主要地域>が9万Bq/屐▲汽ぅ硲粥礇乾瓮衙緬明40km:福島原発隣接市町村および飯館村>が 153万Bq/屬任△辰拭

●観察動物は野生ネズミ(森に住むドテネズミを主に、キクビネズミ)および実験用マウスで、非常に繁殖力が旺盛で1年で2〜3世代を経るので1986-1996年の10年間に20-22世代を経たと考えられた。
●線量の測定法:
外部被ばく量は地上高さ3-5cmでのγ線量を、体内被曝としては動物の体内γ線量をNaIシンチレーション検出器で、ストロンチウム90の測定は放射化学法で測定。
骨髄細胞における変異レベルは細胞分裂中期を観察する標準的な方法で、染色体異常(chromosome aberration)と染色体全体の倍数も調べた。生殖細胞の変異は雄の精子の頭部異常(abnormal sperm head)を観察。

●結果では遺伝的影響についてだけ書きます。
サイト1の低線量被ばく地域では染色体異常に変化は見られなかったが、5年後の1991年になると染色体異常が有意に増加した。
サイト2,3、4となるに従いその程度は強くなり、染色体の数が2倍とか3倍とか倍数性の増加が観察されたが年数が経過するに従い顕著となった。例えば1991年のサイト3と4で観察された9-12%という倍数性の異常は、事故前の200〜300倍にもなった。

●以下は感想:
チェルノブイリの4つの汚染地域と同程度の地域はほぼ東日本全体に及ぶので、3〜5千万人の該当者が住むであろう。従って、福島事故から何十年後、何百年後の東日本の健康状況を予測する上で、非常に重視すべき試験結果である。
このようにゲノム変異は年ごとに増悪しているため、想定外だったであろう。当初の予測と外れたためか染色体異常の研究は5,6年後<1991年、サイト2のみ1992年)で中止させられた可能性がある。

ゲノム科学の黎明期であった26年も前に、今のベラルーシの貧弱な設備でRose女史らにより始まった遺伝子研究の追試を、これから日本で行なわれるならば、最新のゲノム科学に立脚した素晴らしい成果が続々と得られるであろうと想像する。
しかし、日本では放射線が安全だという方向に対する研究補助はあっても、被ばく影響に関する試験研究費を出すなど考えられず暗澹たる気持ちになった。
日本で研究を封印しても、高速ゲノム解析時代に突入した現在、世界のどこかで誰かが明らかにすることは間違いないと思いついたら考えたら少し明るい気分になれた。

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