放射性セシウムによる心不全の起こるメカニズムの考察

  • 2013/01/02(水) 22:12:52

茨城県取手市のQT間隔(Q波は心室が収縮を始める時の小さな波でその時点からT波の消失までの時間です)延長問題から心不全(心筋のポンプ機能不全)がクローズアップされたわけですが既に観察された心筋梗塞(心筋に血液を供給している血管が詰まり、その下行流域の細胞が壊死などを起こすこと)の議論が交叉して複雑化しているように見られますので、エビデンスごとに分類し、そのメカニズムについて考察します。なお、長文になるので分割して記載します。
取手市での心電図検査は小1および中1生のみ(1655人)で行われており、そのデータを市民グループで検討した結果のエッセンスのみを{ }内に書きます。
{突然死の危険性が指摘される「QT延長症候群」とその疑いのある診断結果が、10年度の1人、11年度の2人から12年度8人へと急増していた。}
なお、取手市は阿見町、東葛飾のルート上にあり周辺地区より相対的に放射能も高いので、このような結果が得られる可能性は十分あると思われます。

QT延長は心電図上の変化としては、房室ブロック(心房から心室への伝導遮断)のような劇的な変化ではなかったので、動物試験をしていた私は軽視していた。ところが、20年以上前だったと思うが、この変化が起きると刺激の伝導が伝わらなく、心停止が起き易いことが海外から伝わってきた。それから、かなり経過した2005年から、新薬の場合にはこのQT時間を測定することが日米欧医薬品規制調和会議(ICH)において必須試験項目(参考資料1)となった。

<以下は細かい技術的なことですので、読み飛ばしてもらって結構です。T波の終わりの頃の境界線がはっきりしないし、時にはU波も入り、わかりにくいので、客観的にどう読みとるか興味がありました。最近の心電計ではQT時間を自動計測してくれるそうで、その計算法はT波を微分して基線と交わる点を測定しているようです。このQT時間は心拍数の影響を受けるのでR―R時間の平方根で割算して求め、この場合にはQTcと表します。慶応義塾大学医学部循環器内科の香坂俊先生が医学界新聞に心電図解析について長期連載されており、参考資料2の項で、QT時間について詳しく解説されておられます。
市民グループは恐らく心電図原図にノギスなどを当て相当な苦労をされて計測されたと思いますが、最新の心電計ではQTcまで自動計測してくれます。8名にプラスしてボーダライン付近のヒトも入れ最新の心電計での検査を要求すべきと思います。勿論、電気的解析の欠点もあるので、QT波形との対比は常に必要ですが、ダブルチェックの意味と計測者の個人差の要因は除けます。>

次に放射性セシウムによる心不全を起こすメカニズムについて、ECRRのBusby博士は心筋細胞の更新は年1%程なので放射性セシウムによる心筋細胞死が再生数を超えると心筋組織も縮小し、この状態を萎縮(atrophy)と呼んでいます。
何故心筋に顕著に表れるかというと、心筋細胞はあらゆる細胞の中で最も抵抗性(酸素不足や栄養不足に強い:骨格筋が利用できない乳酸まで栄養源とする)が強いので、心筋細胞が完成した大人では、補充のための細胞増殖をほとんどしなくて済むわけです。
ところが、心筋細胞数の増殖が盛んな子供では、複製のため二重らせんが開いている時間がそれだけ長いため、DNA損傷からの修復時、間違いが多くなります。修復間違いを起こした細胞はアポトーシス(プログラム死)により排除されます。このため子供では大人に比較して、心筋萎縮による心不全を起こし易いと考えられます。
従って、心筋萎縮による要因は大きいと思います。しかし、私はQT時間延長にはカリウムイオンチャンネルの阻害による影響も大きく関与していると思います。
心電図上でのT波の高低に代謝の影響は大きく影響しますが、QT時間の長さは心室筋の収縮から始まる一連の電気的な変化が元に修復されるまでの回復時間であり、これにはカリウムイオンネルの通過が抑制された影響が大きいと考えております。

1価の陽イオンの周期律表ではナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムと大きな原子となっていますが、細胞膜にあるチャンネルはこれらの原子に対し選択制があります。ナトリウムイオンチャンネルをそれより原子径が大きいカリウムイオンが通りにくいことは容易に理解できます。しかしカリウムイオンチャンネルを小さな原子径のナトリウムイオンが通ることができません。これは電気生理学の最も基本的な問題にも拘わらず、そのメカニズムは半世紀以上わかりませんでした。しかし、Roderick Mackinnon教授が発見し、2003年ノーベル化学賞を受賞しました。カリウムイオンチャンネルを二まわり大きなセシウムイオンが通り難いことは当然であり、久留米大学生理学教室の実験でも15%しかと通らないことが報告されています。どの生物も細胞膜にカリウムイオンチャンネルを持っているのに、セシウムイオンチャネルは持っていません。カリウムもセシウムもγ線だけでなくβ線を放出します。β線の到達距離は短く、同じ被ばく影響を与えることは不合理です。ICRPによるシーベルトの計算方法を変えるべきことが示唆されています。

昨年福島の高校生が体育授業中にAEDも効かないで心停止に至ったことが新聞で報道されましたが、この時は心筋の内向き整流型イオンチャンネル<このチャンネルはカリウムイオンを双方向性に流し、一定の膜電位(細胞の内側と外側との電位差)を維持する働きをする。>が影響を受け膜電位が浅くなったため脱分極<細胞の興奮時に瞬間的に細胞内電位がプラス電位になること>が起こらなかったと考えました。

以上、心不全には放射性セシウムイオンによるDNA損傷によるアポトーシスから心筋細胞数が減少し、心筋萎縮が起きることで、これは発育盛りの子供に感受性が高いと考えられます。またカリウムイオンチャンネル障害による心筋の伝導障害も加わっていると思いますがこの場合は年齢的な影響はあまりないであろうと考えられます。

参考資料
1.THE ICH STEERING COMMITEE,2005, The Non-Clinical Evaluation of the Potential for Delayed Ventricular Reporalization (QT interval Prolongation) by Human Pharmaceuticals
http:www.ich.org/products/guidelines/safety/article/safety-guidelines.html
2.http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02952_08#bun2

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